隣のアイドル

そやねん

IZ*ONEの活動終了と、TREASUREの話

#あ、2021年がもうまもなく終わろうとしているんですね……。へぇ〜……ふ〜ん……。


よく「◯◯の曲で元気をもらいました」という話を聞く。楽曲のジャンル関係なく、自身の好きなアーティストや、ある日偶然聞いた音楽によって活力を得たという経験を持つ人はどうやら少なくないようだ。

ただ自分の場合は「この曲を聞くと元気になる/活力を得る」といった経験は正直ほぼないように感じる。数年前、日本のアイドルを真剣に追いかけていたときも「この曲が好き」「ライブパフォーマンスがすごいよかった」「新曲、めちゃくちゃいいじゃん!」といった感情はあったが、音楽のみを聞いて上記のような感覚に至ったことはないように思う。自分の感受性が乏しいのかと思う瞬間もあるが、そのアーティストを取り巻く全ての事象を包括した上で楽曲も消費しているのだ、と最近受け止めるようになった。そうした意味では、純粋に彼/彼女らの「音楽」を愛しているわけではないのかもしれない。ただそれでも、アーティストの姿を見ることで間違いなく日々の生活に刺激や潤い、あるいは虚無的な感情が和らいだ実感がある。特に2021年はTREASUREによって救われた。

長らく金銭的にも時間的にも投資していた日本のアイドルが解散した。解散までの経緯もあり正直今もまだ100%受け止められるものではないが、幸いにも? ぽっかり空いてしまった熱量の注ぎ先は入れ替わるような形でPRODUCE48の放送開始と、そこから誕生したガールズグループIZ*ONEに移行していった。以前よりTWICEやBLACKPINKなどの躍進は把握していたが、比較的長い間日本のアイドルを追いかけていた自分にとって、これまでほとんど触れてこなかった「K-POPアイドル」を追いかける上での用語や慣習は新鮮なものだった*1

IZ*ONEの活動自体は中盤はくだんの件による活動休止期間や、終盤は世界的に猛威を振るう感染症による影響によりライブ活動がオンラインに限られるといったことなどもあったが、いち消費者からすれば毎回満足度の高い楽曲(韓国側のリリースに限り)やファン向けの充実した公式動画提供もあり、提供されたものを都度受け取るだけでも満足した日々ではあった。特に、多くのファンが恐らく最後のカムバックだろうと想定した「One-reeler Act Ⅳ」のタイトル曲「Panorama」は、MAMA2020で初パフォーマンスを見た際に(中盤の時が止まる演出だけはいただけなかったが)、彼女たちのこれまでを表現するようなパフォーマンスであることに驚いた。また、その後改めてリリースされたMVでの演出、“これから”を見据えた歌詞などから作品としての情報量の多さにくらくらしたほどだ。ここで冒頭の話に戻るが、自分は恐らくPanoramaという楽曲を聞くことで「元気」になることはきっとない。ただ、視覚的表現も武器となるガールズグループだからこそ感じられることや、これまでの活動背景、ビハインド映像などから垣間見える本人たちのパーソナリティ、また提供されるコンテンツを通じ運営側の熱量にも思いを馳せることで(これらの消費の仕方が健全かどうかは置いておいて)、新鮮さや感嘆するような体験が得られる。これは楽曲だけでなく本人たちの「魅力」をも求められる傾向にあるジャンルに属すアーティストを長らく追いかけている要因の一つになっていて、自分にとって日々の単調な生活の中で刺激となり、この体験をまた得たいと思ってしまうのだ。

元を辿れば最初に音楽を習慣的に聞くようになったきっかけは日本のバンドであり、今も好きなバンドのライブがあれば足繁く通い、新譜が出るのを心待ちにしている。ただ、こうしたバンドに対して求めているのは、明確にアウトプットされる「楽曲」が自分にとって好きかどうか、というものが大きいように感じる(ここでも別に元気になる、励まされる、といったことは求めていない)。アイドルに対しても前提として提供される楽曲が自分にとって「好き」かどうか、というのはあるし、アーティストを深く追いかけるかどうかの個人的な基準の一つとなっているライブパフォーマンスという意味では、音源で聞いて気に入ったバンドのライブに行った上で「このバンドは音源で聞くだけでいいな」と判断することも少なくない。ただ、自分は「アイドル」という冠をつけず音楽活動をする彼/彼女らがどんなパーソナリティであるのか、というのはさして気にも留めないのに、どうして「アイドル」を見る眼差しは純粋に楽曲と、それを表現するパフォーマンスだけになりづらいのだろう。

もちろんいわゆるバンドやソロアーティスト、「アイドル」と明言しないダンス&ボーカルグループにおいても、前述のような体験が得られないというわけではないと思う。SNSの更新やファン向けのコンテンツなどを発信する者たちも多く、活動を深く追えば追うほど、メディアでの発言内容や普段の立ち居振る舞いなど、楽曲に留まらない部分に目がいくようになるはずだ。ただ、その障壁がとにかく低い傾向にあるのがいわゆる「アイドル」とカテゴライズされるアーティストたちなのではないか、とも思う*2。楽曲に留まらない付加価値のようなものを背負わされやすいのだな、とさえも。特にサバイバル番組出身であったり、コンテンツが充実しがち、発信源が多いグループほど、大塚英志が提唱した物語消費論や、東浩紀のデータベース消費論が頭をよぎることがある(あ、すみません偉そうなこと言っていますがこれの概念8割くらい忘れております……)。

なんだかすごい脇道に逸れてしまったが、とにかく自身の生活において2018年10月29日から2021年までの間、IZ*ONEという存在は大きくなりすぎていた。そうしたなか、2021年3月10日に当初の予定通りではあったものの、4月をもって活動終了の報が流れることとなる。このとき、3月13日、14日にオンラインコンサートが控えている状態だった。IZ*ONEと同シリーズのサバイバル番組「PRODUCE101 season2」から誕生したWanna oneは、2018年12月末までが活動期間とされ、その後いくつかの授賞式の参加を経て2019年1月に開催されたラストコンサートを持って正式に活動が終了となった。なので、てっきり「直近でやるオンコンとはまた別に、正式なラストコンサート、あるいはデジタルシングルなどはやるだろう」と思っていた。だがしかし実際には、3月13日のコンサート中に「今回のオンラインコンサートが実質最後の公式活動」ということを知ることとなり、些か混乱した*3。その後の活動終了日までの約1カ月強の期間は、IZ*ONEを少なからず追いかけていた者であれば、「俺たちまだちゃんとバイバイしてないよね……?」という感情を抱かずにはいられない、俯きたくなるような時期であっただろう。(そしてそのままIZ*ONEは4月末の活動終了を迎えた)

そんなIZ*ONEの活動終了云々の時期に出会った(というかちゃんとコンテンツを見始めた)のが、TREASUREだった。以前よりTREASUREという名前は聞いていた。ただWanna one出身のペ・ジニョンがボーイズグループで再デビューするというニュースが出始めた頃、メンバー公開の際「宝石箱出身の……」という冠で紹介された記事やTwを見かけ、「YG宝石箱というサバイバル番組」という存在を把握していたり、そこで結成されたグループが天下のYGでのゴタゴタによりデビューが延び延びとなり、ようやく2020年にデビューできた、それがTREASUREだ、といった程度であった。何ならONFがSukhumvit Swimmingでデビュー以来初の1位候補になれるかなれないかという瀬戸際、Mカで1位候補に挙がったのはBOYでデビューしたTREASUREだった。正直そのときは「TREASUREが1位候補か……」と思ってしまっていたくらいだ。恥ずかしい話ではあるが、元々YGという事務所に対して「自分とは合わないな」という先入観があった。BIGBANGやBLACKPINKのイメージが強く、特にBLACKPINKの代表曲がことごとく個人的にあまり好きではなく、また、今でこそ多様なジャンルをこなしていることが分かるが、BIGBANGのBANG BANG BANGなども自分の好みとはやや外れており、前述のBLACKPINKとの相性の悪さから「YG所属アーティストの楽曲、ひいてはアーティスト自体も全般的に好きにはなれないだろう」と楽曲を聞く前から敬遠していたのだ(同理由でWINNERやiKONも食わず嫌いであまり聞く機会がなかったが実際に聞いてみると好きな曲調のものも多かった)。

そんな食わず嫌いマンが、いかにしてTREASUREと真正面から向き合うようになったのか。きっかけは、日本版プデュ(日プ)に関する感想動画が面白く、定期的に日プ関連の投稿動画を視聴していた「ごちそうさまです。オッカケ君 CHANNEL」を流し聞きしていた際に再生された以下の動画だった。


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正直、予備知識がないと何を言っているのか全くもって分からなかった。どうやらメンバー間でドラマを制作したようで、その感想のようだが、元動画を見てみてもいかんせんどの配役が誰なのかも分からない。同チャンネルでは他にもTREASUREに関する感想動画がアップされており、その感想ではしきりとメンバーの良くも悪くも遠慮のない、賑やかさに対しての反応が多いのが気になり、この面白さを自分もわかりたい……! と、食わず嫌いだったYGコンテンツに手を出す一歩につながった。どうやら「TREASURE MAP」というのがSEVENTEENでいうところの「GOING SEVENTEEN」系の動画なのか、と把握し、再生リストからひとまずTREASURE MAP各エピソードをじっくり見るのではなく、適宜スキップしながら見始め、とにかくTREASUREというものに対して慣れることから始めていく。この時点でもまだメンバーの顔と名前が一致していない状況だったが、TREASURE MAPをひたすらリピート再生&ファンが作成した布教動画(メンバー紹介動画)を繰り返し見ていくことで、徐々にメンバーの見分けがつくようになり、また顔と名前が一致していくことによって、TREASURE MAPを見ていく楽しさも増していった*4

TREASURE MAP(以下トレマ)を3日ほどかけて当時公開されていたものをすべてしっかり見終わった頃には、もうトレマなしでは生きていけない体になっていた(誇張)。各コンテンツに対する金と労力のかけ方が明らかに「かかっている」ことが番組としての面白さの揺るぎない土台であることは間違いないが、それだけでなく、各回に対するメンバーの取り組み方が非常にやかましく、元来「わちゃわちゃ」が好きな自分との相性のよさを感じた。IZ*ONEがENOZI CAMで見せる姿とはまた異なるが、波長的に似たものを感じたのも大きかったように思う。また基本的にガールズグループの方を好きになることが多く、「男性み」が強いビジュアルやスタイルを長時間見ることが苦手という致命的な欠点があった自分にとって、筋骨隆々さをビジュアル面での売りとしていなさそうなところも救いだった(もしかすると数年後、TREASUREメンバーももっと体格が変わったり顔立ちが変化したりすることもあるかもしれないが…)。

3/14〜4月末までの間の喪失感は、TREASUREとの出会いによって間違いなく軽減されたと思う。時折さくのきの放送日やメンバーによるプラメでIZ*ONEに対しての「活動終了という現実感のなさ」にふわふわするような感情もあったが、毎週更新されるTREASURE MAP*5だけでなく、IZ*ONEでいうところのENOZI camに相当するT.M.Iや3分トレジャー、ファクトチェックなど、彼らを知るためにひたすら動画を見ていたことで、気が紛れることも多かった。そして結構個人的に驚きだったのが、恐らく初めて自分はアーティストの存在によって「元気をもらう」感覚をTREASUREで抱いたのだ。かつて追いかけていた日本のアイドルも、IZ*ONEに対しても、彼女たちの活動を追いかけることで「見ていて楽しい」「良いパフォーマンスが見れた」という満足感のようなものはあったが、その姿を見て「元気出た〜」と感じることは恐らくなかった。ことTREASUREはとかくうるさい。いつでも歌い踊り叫び、ミニゲームも全力で行い、追いかけっこも本気としか思えないスピードで走っている。全力であるがゆえにポカしている姿も少なくなく、そうした様子を見ていると、なんだかホッとしている自分がいたのだ。

何より、彼らのコンテンツを見ると、ま〜どんなときにも歌って踊っている。本当に音楽が好きなんだなぁこいつらは……と感じずにはいられないし、そんな彼らが歌って踊っている様子を見ると、なんだか「よかったねぇ」という気持ちになり、見ているこちらも楽しくなる感覚を覚える。曲単体を聞いて「元気をもらう」感覚は、やはりまだ経験することはないが、彼らがパフォーマンスをしている姿を見て、なんだか「見ているこっちが元気になる」という感覚は初めて抱いた。あと意図してなのか偶然なのかはわからないが、個人的に非常にうまくできているなと思ったのが、トレマ等のBGMとして、彼らの楽曲が使用されることも多いということ。楽曲に興味が持てていなかったとしても、サブリミナル的にトレマを見る度に彼らの音楽に触れる機会が増え、いざ初めて彼らの楽曲を聞いてみるか、となった際に、なぜかすっと耳に入ってしまうのだ。いわゆるYG所属アーティストというイメージから、楽曲自体への抵抗感は比較的大きかったが、いざ聞いてみれば「あ、これWebドラマ回で流れてた曲じゃん……」という文脈の方が勝つことも多かった(そして素直に聞きやすい楽曲が比較的多いですねTREASURE)。

恐らく自分は、TREASUREと初めて対峙するきっかけが「BOY」や「I LOVE YOU」のMVだったら、ここまで好きにはならなかったように思う。ただ、自分のようなきっかけで興味を持つパターンだってあるし、本人たちの吸引力さえあれば、継続的に応援しようと思う新たなファンはちゃんとつくよな……と感じた。



2021年によく聞いたK-POP曲を振り返る、といった動画やTwでMY TREASUREを取り上げている人を何人か見かけた。その紹介文には「歌詞がいいし、元気が出る」「励まされた」といったものも多い。歌詞の意味自体は未だに把握できていないが(恐らくJapanese ver. と若干違いそう)、恐らく「しんどいこともあると思うけど笑っていこうぜ」といったニュアンスが込められているように思う。自分自身は未だに曲を聞いて元気になる、という感覚はつかめていないのだが、多幸感溢れるサウンドとそれを全身で表現するようにパフォーマンスする彼らの姿を見たとき、たしかに自身の鬱屈した日常にも温かさをもたらしてくれた。機会があれば歌詞を見てみたいし、聞くだけで理解できるようになりたいなとも思う。どんな暗闇でも一筋の光となるような眩しさを視覚的にも凝縮したMY TREASUREは、自分にとって初めての「元気をくれる曲」となのかもしれない。


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TREASUREの影響でYGへの苦手意識はどう変化したのか、で、結局お前はTREASUREをどう消費してんの? といった話はまた機会があれば……

*1:正確にはVLIVEなどが誕生するもっと前の2008〜2011年くらいまでの間、鷲崎健さんの影響によりKARAはウォッチしており初来日時のショーケースに参戦するなどしていたり、同級生がSHINeeが好きだったこともありLIVEに行くなどしたりしている

*2:日本のアイドルだけでなくK-POPシーンで活動するアイドルもだと思っています。C-POPはあまり詳しくないけれど、INTO1なども似たような雰囲気は感じとっています

*3:というより、自身がIZ*ONEの前に長らく追いかけていたアイドルグループも、消化不良の解散発表をされたグループであったため、自分が好きになるグループはどうして美しい別れができないんだと悲しくなった

*4:TREASURE MAP自体は初めて閲覧した当時はちょうどep37くらいまでアップされている状況で、TREASURE MAPの再生リストを眺めつつサムネイルから面白そうなのをとりあえずクリック⇒なんとなく何やっているのかを把握⇒すぐに別の動画をクリック⇒といったのをループしていた。最初に選んだのはたしか遊園地での宝探し回だった記憶。1話ずつじっくり……という見方をし始めたのは、多分顔と名前が完全に一致してから

*5:シーズン3の放送開始を待っています……